○水難救助活動要領
令和2年4月17日
消本訓令第2号
第1章 総則
第1 水難救助の定義
水難救助とは、河川、沼、海等の水域において、水難救助器材等を活用し、生命又は身体に危険が及んでいる要救助者を安全な場所に救出し、救命することをいう。
第2 用語の意義
この活動要領における用語の意義は次による。
1.水難救助隊―潜水士の有資格者で編成した、潜水活動を行う一隊をいう。
2.水難救助隊長―潜水隊員の中で上席の者をいう。
3.ボート隊―水難救助用ボート(以下「ボート」とする。)と乗船員で編成した一隊をいう。
第3 水難救助の対象
1.遊泳中の事故、人の河川等への転落事故。(自損行為を含む)
2.車両等の水中への転落事故。
3.大雨、洪水及び内水氾濫等の自然的災害に伴う水に係わる人命救助を要する事象。
4.その他、消防長が必要と認める救助事象。
第4 水難救助の特性
水中における活動は、水圧、流速、水温等及びそれらに伴ういろいろな物理的、生理的作用を受け直接生命に係わる危険な環境条件の中で行われ、水難救助活動に際しては、危険性を強く認識するとともに平素から潜水業務に関する基礎知識と技術の向上に努め、陸上、水上(水中)の連携体制を確立し、隊員個々の技術を高め迅速、確実かつ安全な隊の活動が特に要求される。
第2章 救助活動要領
第5 出動要領
1.水難救助の出動指令を受けた水難救助隊及びボート隊員は、必要資機材(救命胴着、浮標、潜水器具、スバリ、ボート等)を積載して出動する。
2.消防長は署所の実情に応じて、出動する車両をあらかじめ指定しておくものとする。
第6 救助活動の原則
1.統一事項
(1) 消防隊員及び関係者の二次的災害の発生防止を考慮した活動を基本原則とし迅速な行動に努める。
(2) 水難救助活動方針は、各隊指揮者を通じて全隊員に周知徹底する。
(3) 救助資器材の点検を確実に行い、安全管理に万全を期する。
(4) 水難救助現場は、活動上支障が多く、活動範囲も制約されるため、隊員は現場最高指揮者の現場統制を厳守する。
2.情報収集
(1) 関係者からの救助事象発生位置の確認は、努めて2人以上の目撃者から、目撃位置のほか、別の位置からも地上等の目標物と関連付けで情報収集を行い、目標図の作成を行うなど、初動の対応に万全を期す。
(2) 要救助者の位置(水没した場合は水没位置)を把握又は推測し、事故発生場所及び現場付近の水深、水温、流速等から、救助活動障害又は活動危険等を把握する。
(3) 水難救助隊が後着となる場合、先着隊は、目撃者の確保及び前項の情報収集に努め、侵入道路の情報・収集した情報を本署通信員等に報告する。
3.活動方針の決定
水難事故における人命救助は一刻を争う場合が多い。このことから、水難救助活動に際しては次の事項に留意し、迅速に活動方針を決定する。
(1) 救助事象発生位置を中心に、付近水域の活動環境(水中の視界、水深、水温、流速、潮の干満、風浪、うねり、風雨等をいう。)を総合的に判断して救助活動対象区域を設定する。(船舶等の航行する水域においては、浮標に「潜水中」を示す国際信号旗(アルファー旗)を掲げるものとし、ボートを活用する場合はボートに国際信号旗を掲げる。)
なお、活動環境としては、視界、水深、水温、流速、潮の干満、波浪、風雨等を基準とする。
(2) 水没や流され等によつて要救助者が不明の場合は、現場の水深、流速等の状況を勘案し、検索範囲を決定する。
(3) 現場の物理的要素及び自然的要素、さらに消防隊の技術的要素を踏まえ潜水又は潜水以外の活動、若しくは、これらを併用した救助活動を実施するかを決定する。なお、水難救助隊長は潜水、ボート隊員はボートの可否について現場の状況を的確に判断し、現場最高指揮者に対し積極的に進言する。
(4) 各隊の任務分担(陸上、水上又は潜水等の別)を明確に指定し、有機的連携図る。
(5) 各隊の指揮者は、状況の変化を察知した場合、現場最高指揮者に報告するとともに、直ちにこれに対応できる体勢を確保する。
(6) 現場最高指揮者は、状況の変化が安全管理上配慮すべきであるときは、直ちに活動方針の変更又は修正を行う。
4.現場最高指揮者
現場安全管理チェックシート(別表1)に基づき、安全管理に万全を期するとともに、次の事項に留意して現場指揮を行う。
(1) 陸上と水上の各隊が連携を図つた安全、迅速、確実な行動が必要であり、特に水中における活動は、困難かつ危険を伴う作業であるため、出場隊の各指揮者を統括し、効率的な救助活動に配意する。
(2) 関係機関と連携して活動する場合、関係機関の責任者と協議し、相互の安全確保に配意して、明確に活動区域の分担を行う。
(3) 事故の内容及び要救助者の状況から、現場に医師の要請を必要と認めた場合、又は再圧治療を要すると判断した場合は、本署通信員に要請する。
(4) 救助活動が夜間又は夜間に及ぶと判断した場合は、照明等の要請を行う。
5.指揮隊員
活動方針を具体化するため、次の事項に留意して活動し現場最高指揮者の補佐にあたる。
(1) 関係者からの情報収集は、目撃した位置に関係者を同行し、具体的に救助事象位置(水没位置)の確認を行い、これを図面化して、関係者に確認させる等、確実性を高めること。
(2) 検索を実施した区域を図面等に表示し、活動状況を把握すること。
(2) 情報収集を行うとともに、現場付近全般の安全管理に当たる。
(3) 現場最高指揮者と各指揮者との連絡手段を確保し、指揮命令、活動状況及び安全に関する報告、連絡等、密接な連携がとれるよう配意する。
(4) 現場における消防隊員の言動は、要救助者等の関係者、付近住民の感情等を害さないように十分注意するとともに、現場広報等にあつては、慎重かつ適正に対処する。
6.水難救助隊以外の消防隊
次の事項に留意し活動する。
(1) 水難救助隊に対する支援活動は、水難救助隊長と連絡を密にし、資器材の搬送、管理、照明、衛生管理、ボートへの乗船等に従事する。
(2) 陸上及びボートからのスバリ等による検索活動に当たつては、水深、流速等を考慮し、最も効果的な方法で行う。
また、水難救助隊による潜水活動と併行してスバリ検索を実施する場合は、区域を明確に区分して、潜水隊員に対する二次的災害の発生防止に特に配意する。
(3) 照明活動は、水難救助隊の潜水区域を中心に行うものとする。
(4) 救急隊は、要救助者の救出(収容)位置を確認し、応急処置のとれる体勢を確保しておく。
第7 水難救助隊の活動要領
1.潜水基準
(1) 活動水深は10メートル以下、水中活動区域は陸上から50メートル以内とする。ただし、現場最高指揮者及び水難救助隊長(以下「水難救助隊長等」という。)が、水の流速、波浪、水中の視界及び水難救助隊員(以下「潜水隊員」という。)の潜水能力等、総合的な安全が確保できると判断した場合は、関係機関と協議し要請を受けた場合に活動するものとする。
(2) 水流又は海潮流の流速は、1.0ノット(約0.5m/秒)以下とする。ただし、水難救助隊長等が十分な安全措置が確保できると判断した場合はこの限りでない。(概ね2.0ノット以下まで。)
(3) 波浪及びうねりは、気象庁風力階級等指定(昭和28年運輸省告示第58号)による風波階級3(波高0.5メートルを超え、1.25メートルまで)及びうねり階級2(波高2メートル未満で、長く弱いうねり)以下とする。
(4) 水中の視界は、0.5メートル以上とする。ただし、水難救助隊長等が潜水活動を行う潜水隊員に対して現場付近の視界に応じた潜水方法等を指示し、十分な安全措置が確保できると判断した場合は、この限りでない。
(5) 潜水時間帯は、日の出から日没までの間とする。ただし、水面上の十分な照明及び水中照明を確保できる場合はこの限りでない。
(6) 潜水隊員1人の潜水時間は、水深がおおむね10メートル以上の潜水の場合、原則として1回の救助活動でボンベ(14L)1本の使用時分(残圧を見込んだもの)とする。
(7) 水没している車両内に進入する場合は、進入口の大きさの状況等を確認し、かつ、脱出に伴う安全措置を行つた後、進入する。
(8) 水温は、おおむね摂氏7度以上とする。
2.ボートの運用基準
(1) 活動範囲は、管轄水域内のうち船舶検査証書に記載されている沿海区域とする。船舶検査を必要としない救助ボートにあつては、気象状況・燃料の容量等を考慮し、現場最高責任者が判断した区域とする。
(2) 波浪及びうねりは、気象庁風力階級等指定(昭和28年運輸省告示第58号)による風浪階級3(波高0.5メートルを超え、1.25メートルまで)及びうねり階級2(波高2メートル未満で、長く弱いうねり)以下とする。ただし、船舶検査を必要としない救助ボートにあつては、水難救助用ボート運用基準(別紙1)に基づく波浪及びうねりとする。
(3) 夜間(日没から日の出)の航行及び区域は、水難救助用ボート運用基準(別紙1)に基づくこと。
3.水難救助隊長の任務
潜水活動は、救助目的遂行上、極めて重要かつ危険を伴う行動であるので、水難救助隊長は安全確保を主体に、次の事項に留意して活動する。
(1) 現場到着時、救助事象発生水域が、潜水可能かどうか、水域の障害物及び作業危険の有無等をできる限り把握し、その状況を現場最高指揮者に報告して下命をうける。
(2) 潜水活動を実施する場合、指揮に最も便なる場所に位置し、常に周囲の状況を注視するとともに、現場最高指揮者に対し活動状況の報告を行う。
(3) 潜水活動を実施する場合は、水深、流速及び水中の視界等により、検索範囲、方法を現場最高指揮者に報告して下命をうける。
(4) 潜水状況(気泡、命綱、浮標の動き等の状況)の監視にあたり、潜水隊員との連絡(合図)を保つ等、救助活動及び安全管理に万全を期す。
(5) 潜水中は、2人1組(バディー潜水)の原則を遵守し、隊員個々の潜水活動の相互確認の合図に注意を払うことなど、潜降前に潜水原則を再確認する。
(6) 潜水可能時分を潜水隊員とともに確認し、おおむね5分ごとに浮上させ、状況により検索方法及び範囲の修正、あるいは隊員交代等の措置を行う。
(7) 水難救助隊長が潜水する場合は、潜水に関する知識及び技術の優れた者を、隊長の代行者として指定し、隊長の任務を行わせる。
(8) 潜水中、状況の変化により救助方法を変更する場合又は二次的災害危険がある場合は、直ちに潜水活動を中止させ、潜水以外の方法で対応する。
(9) 潜水活動が長時間に及ぶ場合は、潜水隊員の安全に留意し、現場最高指揮者に指示を求め、活動に無理のないよう配意する。
(10) 潜水活動終了後は、潜水内容を潜水業務記録(別表2)に記録するとともに、潜水深度及び潜水時間に応じ、体内ガス減圧のため、一定時間、潜水隊員に休息を与えるものとする。なお、水深10メートル以上で活動する場合、ボンベ1本の使用時分(残圧を見込んだもの)を限度とし、同一隊員に以後の潜水を実施させない。また、浮上後の過激な行動は行わせない。
4.潜水隊員の任務
潜水活動中の行動をすべて自分自身で判断しなければならないため、バディーと安全確保を図り、次の事項に配意して活動する。
(1) 隊長の指揮下に入り、単独行動を避け、規律ある部隊行動を保持する。
(2) 水難救助隊長から指示された事項(活動方針、要領)を完全に理解した上で、行動に移る。
(3) 常に2人1組(バディー潜水)を厳守し、バディーと連携を保ち、定められた信号と合図を守るとともに必ずバディーが了解したかを確認する。
(4) 潜水に関する安全及び技術に係わる判断については、積極的に隊長に進言する。
(5) ボンベ充填圧力、潜水深度及び空気消費量等から、バディーと潜水可能時分を確認し、使用可能時分の短い者に合わせて潜水可能時分を設定する。
(6) ボンベは10MPa以上充填したものを使用し、充填後1年経過したものを使用しない。
(7) バディー相互で潜水器具、ボンベ圧力等の点検結果を隊長に報告し隊長の命令により潜水を開始する。
(8) 潜降に際し、水中障害物及び水深の把握が十分でない場合は、腕を前方に伸ばし、障害物を確認しながら行動して、水中のくい、ロープ、その他の障害物に身体又は装備等を引つかけないよう配意する。
(9) 装備等を障害物に引つかけたときは、バディーに合図し救援をうける。引つかかり状態が複雑で、脱出まで時間がかかると判断したときは、ボンベ残圧、潜水時間等を考慮し早い時点で装備を脱し浮上する。この場合、呼吸を整えた後、必ず息を吐き続けながら浮上する。
(10) 1メートルごとに、水深及び水面方向を示す目印を標示した、さがり綱(ロープ)を使用し、水深及び水面方向の確認に使用する。
(11) 残圧計指針を随時確認し、3MPa以下の場合は、バディー間で合図のうえ直ちに浮上する。また、身体に異常(耳、鼻等、局部的な異常を含む)を感じたときも潜水活動を中止し、バディーに合図して浮上する。
(12) 潜水器具関係の故障に際しては、バディーに合図し、水深や自己の呼吸状況に応じて、バディー・ブリージングによるか、あるいはそのまま息を吐き続けながら浮上する。浮上中は決して息を止めてはならない。
(13) バディー間の連絡が途絶えた場合は次による。
ア.すべての動作をやめてその場に停止する。
イ.バディーの呼吸音、信号等を聞く。
ウ.金具等で信号を発し、バディーの反応(信号、合図)を確認する。
エ.全く連絡が途絶えたと判断した場合は、直ちに浮上し隊長に報告する。(バディーから離れないことが原則であるが、救助を求めるためにバディーから離れ、浮上するのはやむを得ない行動であり、この場合、バディーと可能な限り、合図等により連絡の上、浮上するように配意する。
5.ボート隊員の任務
ボート活動中、次の事項に配意して活動する。
(1) 早期に浮船場所を選定し、現場最高指揮者の下命を受ける。
(2) 陸上を移動する場合は、船底部の引きずりに配意する。
(3) ボートの空気圧力は指定圧以下で使用する。
(4) 乗艇する場合は、救命胴衣を着用するとともに定員を厳守する。
(5) 潜水隊員がボートからエントリーする時はバックエントリーを基本とし左右対称同時にエントリーさせバランスに配意する。
(6) 水上における警戒活動は、水難救助隊員の監視及び他の航行船舶の救助水域、進入規制等、実施する。また、可能な限り太陽を背にして行い水面の乱反射による見落としに配意するとともに、潜水隊員等へのスクリュー巻き込みにも配意する。
(7) その他、別紙「水難救助用ボート運用基準」を遵守し運用するとともに安全運用に努めること
第3章 安全管理
第8 安全管理の認識
水難救助活動は、活動上の制約をうけ、二次災害の発生危険が大である。救助活動に当たつては、常に安全管理を念頭に行動する必要があり、万一事故が発生した場合は、的確に状況を判断し、適切な措置がとれる知識と実践力が要求されるので、平素から非常事態発生時の措置及び対応要領についても考慮しておく。
第9 水難救助隊員の潜水時の安全管理
1.水難救助隊員の潜水活動は、水温、流速、透明度、水圧等により、物理的及び生理的作用を体に受け、直接生命に係わる危険が潜在している。
(1) 潜水器具の故障に対応した措置ができること。(バディー・ブリージング、緊急浮上法)
(2) 潜水障害の排除又は事故発生時の措置がとれること。(障害排除)
(3) 潜降又は浮上に伴う水圧の加減に対応する措置がとれること。(耳抜き)
(4) 水中での呼吸要領、潜水、遊泳技術等の訓練を随時実施すること。
第10 泳いで救助する場合の安全管理
1.緊急の場合で、泳いで救助する場合、水難救助隊長は隊員のうち泳力があり、体調の良好な者を指定する。
2.泳いで救助する場合は、原則として救助員に確保ロープを使用し、陸上等で安全確保を行い、浮環等を携行して救助に活用する。また、ロープで浮環を結着し、曳行する方法もある。
3.着衣のまま水に入ると、着衣に水を含み、動きがとれなくなるため、必ず救命胴衣又は潜水服を着用する。
4.要救助者へ接近するときは、抱きつかれないよう背後から行う。抱きつかれたときは、水中に身を沈めてかわすこと。
第11 ボートを活用した救助での安全管理
1.波浪及びうねり、バランス等で転覆する危険性があり、一度転覆した場合は、生命に係わる危険がある。
2.着衣のまま水に入ると、着衣に水を含み、動きがとれなくなるため、必ず救命胴衣又は潜水服を着用する。
3.要救助者を救出する場合、抱きつかれない距離に停泊し救命浮環等又は水難救助隊員でボート上に引揚げる。
第12 水難救助資器材の保守管理
1.潜水器具及びボートの常置場所は、通風が良く、湿気及び直射日光がさけられる場所で、出場に便なる位置とするほか、次によること。
(1) 潜水服(ウェット・スーツ、ドライ・スーツ)は、ハンガー等にかけておく。
(2) ボンベには、背負子(ハーネス)及びタンクホルダーを取り付けておく。
(3) 調整器本体(レギュレーター)及び前(1)(2)以外の器具は携行バッグに収納しておく。なお、出場及び現場到着後、直ちに救助活動に着手できるよう措置しておくものとする。
(4) 船体を海水で使用した場合は、清水にて洗浄し、乾燥後にベビーパウダー等で保護するとともに空気圧は低圧で保管する。
(5) 船外機を海水で使用した場合は、水洗いキットにて清水を通し最低5分間は始動する。また、保管時は、船体より離脱させておく。
2.水難救助活動に必要な資器材は、常に使用可能状態を維持しておくものとし、かつ、出場時に迅速な対応ができるよう、常置場所についても考慮しておく。
第13 再圧治療施設
消防長は、事前に減圧症、その他高気圧障害の疾病に対しての再圧治療施設を確認しておくとともに、傷病者の搬送手順をあらかじめ指定しておかなければならない。
第4章 訓練
第14 訓練
1.水難救助隊は、水難救助技術向上のため、月2回の定期訓練及び必要に応じ行う随時訓練を実施する。
2.ボート隊員は、水難救助隊員と連携し隔月で2回、定期訓練を実施する。
3.水難救助隊長は、実施した訓練結果を記録するとともに、これを検討し水難救助技術の向上に努めなければならない。
4.水難救助隊と水難救助隊以外の消防隊及び指揮隊による連携合同訓練を年2回以上実施するものとする。
附則
この要領は令和2年5月1日から施行する。
別紙1
水難救助用ボート運用基準
(目的)
第1条 この基準は、水難救助活動及び操縦訓練に係る、水難救助用ボート(以下「救助ボート」という。)の安全な運用について、必要な事項を定めるものとする。
(編成)
第2条 救助ボートを運用するにあたり、救命胴衣を装着させる等の安全対策を実施した消防隊員等を乗艇させ2名以上をもつて編成する。
(航行前の確認事項)
第3条 航行前には、次の事項について確認を行う。
(1) 燃料、潤滑油量を確認する。また、必要に応じて予備缶を携行する。
(2) 船外機の確実な固定を確認する。
(3) 船体の破損、エアーの充填状況を確認する。
(4) 積載装備品の確認を行う。(オール等)
(5) 気象・海象情報(天気、風速、波、日没時間、潮位等)を確認する。
(6) 水冷式船外機の始動点検をする場合は、必ず冷却水を循環させる。
(航行条件)
第4条 航行条件については、次のとおりとする。
(1) 波浪及びうねりは気象庁風力階級等指定による風浪階級2(波高10センチを超え、50センチメートルまで)及びうねり階級2(長く、弱いうねり「波高2m未満」)以下とし、風速にあつては4m/s以下とする。
(2) 乗艇人員は定められた乗員数までとする。ただし、要救助者の数、資機材の積載量を考慮する。
(3) 航行区域は、救助ボートの船舶検査証に記載された区域とする。
船舶検査を必要としない救助ボートにあつては、気象状況・燃料の容量等を考慮し、現場最高責任者が判断した区域とする。
ただし、夜間の航行区域は投光器等で照らせる範囲とする。
(4) 夜間(日没から日の出)の航行は動力船(船外機付き)にあつては、航海灯(全周灯)を表示することとし、それ以外のものにあつては、照明(懐中電灯等)を使用し、周囲に存在を示すことができる処置を講ずること。他の船舶が付近を航行するような場所ではレーダーリフレクターも装備すること。
(5) 船舶等の航行する水域においては、救助ボートに「潜水作業中」を示す国際信号A旗を掲げる。
※国際信号A旗(白色と紺色)
(監視活動)
第5条 監視については次のとおりとする。
(1) 監視を下命された場合の水上における警戒活動は、水難救助隊員の安全監視、他の航行船舶の救助活動水域への進入規制等を主目的に、拡声器等を活用して効果的に実施すること。
(2) 監視は可能な限り太陽を背にして行い、水面乱反射による見落としがないようにすること。
(入艇時の留意点)
第6条 入艇時の留意事項は、次のとおりとする。
(1) 乗員は救命胴衣を着用する。ただし、潜水資機材を装備した者を除く。
(2) 操縦者は入艇後、直ちに船外機のエンジンを始動し、水冷式の場合は、冷却水の吐出を確認する。
(航行中の留意事項)
第7条 航行中の留意事項については、次のとおりとする。
(1) 通信連絡体制に関すること。
消防用携帯無線機、トランシーバー等を携行し、常に陸上隊と連絡を取ることのできる体制をとる。また、必要に応じ、ライト等を携行する。
(2) 安全監視(見張り)に関すること。
すべての乗員は以下の事象に注意し、情報を共有する。なお、操縦者は状況に応じて、進路変更、減速等必要な措置を講ずる。
ア 他船、浅瀬、岩、漁網、浮遊物等の障害物の状況
イ 大型船からの引き波、自船の引き波による影響
ウ 岸壁からの係留ロープや、釣糸の状況
エ 潜水活動中の潜水隊員の気泡及び浮上隊員の状況
オ その他、航行の妨げとなる事象
(3) 操船に関すること
ア 離岸時は、急な舵操作による岸壁との接触に注意する。
イ 着岸時は、減速前進で実施する。なお、必ず防舷物を使用し、必要に応じて係留ロープを陸上隊に確保させる。
ウ 操縦者は、発進、増速、減速、変針時及び引き波等で船体の動揺が予想される場合は、全ての乗員に知らせる。
エ 潜水隊員への接近は、潜水隊員が全員浮上している場合若しくは、浮上したその際は、潜水隊員に接近する旨と接近している方向、接近する側(右舷、左舷等)を確実に伝える。
オ 同乗者(テンダー)は必要に応じて手信号で進路変更、停止等を指示する。
カ 2隻の動力船が真向かい又はほとんど真向かいに行き会う場合において衝突する恐れがある時は、他の動力船の左舷側を通過することができるように、右に転じなければならない。
(事故時の対応)
第8条 事故時の対応については、次のとおりとする。
事故が発生した場合は、早期に現場最高責任者に報告し、応援要請する。
(1) 衝突した場合
ア 機関を停止させ、負傷者、転落者の有無を確認し、人命救助に努める。
イ 船体及び衝突対象の損傷や浸水の状況を確認する。
ウ 相手船がある場合は、船名、所有者名、住所、連絡先、船舶番号などを確認する。
(2) 座礁した場合
ア 機関を停止させ、状況を確認する。確認が取れるまでは機関始動はしない。
イ 船が沈没する場合は、乗員や積み荷の移動で船体を傾ける、アンカーを投入しロープを手探る、機関後進などを併用し、船体に最も負担のかからない方法で実施する。
(3) 転覆した場合
ア 全ての乗員の安否を確認し、船体や救命浮環などの浮力を確保する。
イ 船が沈没する場合は、引きずり込まれないよう可能な限り離れる。
ウ 確実に岸までたどりつける場合以外は、その場で応援を待つ。
(4) 乗員が転落した場合
ア 直ちに落水側へ転舵し、機関を中立にし、落水者からプロペラを離す。
イ 救命浮環を落水者の奥へ投下し、手探りで寄せて救助する。
(5) その他の事故
適宜必要な措置を講ずる。